Effortless Life
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REVIEW

小説「遠い太鼓」から 旅行を続ける事の喜び。

大好きな村上春樹の小説「遠い太鼓」から抜粋シリーズ!

僕はいわば自分の重力を落ち着かせるためにこの本を作っていた。文章を書くというのはとてもいいことだ。少なくとも僕にとっては。自分の考え方から何かを「削除」し、そこに何かを「挿入」し、「複写」し「移動」し「更新して保存する」ことができる。そういうことも何度も続けていくと、自分という人間の思考やあるいは存在そのものがいかに一時的ななものであり、過渡的なものであるかということがよくわかる。

ふとこういうふうにも思う。今ここにいる過渡的で一時的な僕そのものが、僕の営みそのものが、要するに旅という行為なのではないかと。そして僕は何処にでも行けるし、何処にも行けないのだ。

旅行というのはだいたいにおいて疲れるものです。でも疲れることによってはじめて身に着く知識もあるのです。くたびれることによって初めて得る事のできる喜びもあるのです。これが僕が旅行を続けることによって得た真実です。